ヤング≒アダルト(Young Adult)
まともに考えれば、シャーリーズ・セロン演じる主人公メイビス・ゲイリーに感情移入できたり同情したりできる人は、メイビスのごとく”輝かしい過去”が愛おしくてたまらない少数派だけ。そんな、まったく好感の持てない人物を主人公として据えたことがこの作品のすべて。実に奇妙な作品だ。
メイビスを自分のことのように感情移入はできないが、「あーいるいる、こういう人」と感じる人は多いはず。しかしメイビスはあらゆる面でぶっ壊れてる。ぶっ壊れ感が凄まじい。それはもう奇人のレベル。彼女はヤングアダルト小説のゴーストライターというだけでなく、彼女自身がヤングアダルトのかたまりだ。年はとっても頭の中は栄光の学生時代の自分のまま。女王様気取りで周りなどお構いなしに突っ走る。
しかし、いくら頑張っても彼女の抱える悲しみは癒せない。過去の自分を周りの環境ごと取り戻すことなんてできないからだ。さんざん好きなように生きてから「あー公務員にでもなって結婚して、安定した普通の生活をしたかったなー」なんて嘆いたってもう遅い。だから大人はなんとか別の方法で現状に折り合いをつける。それが別の前向きな目標であったり、ため息混じりのあきらめだったりするわけだ。
つまり大人なら、メイビスの気持ちは手に取るように分かる。分かるけどどうしようもないことも分かっている。だからメイビスを取り巻く旧友や両親や親戚は、みんなメイビスの扱いに困ってはいるけど、ちゃんと相手はしてくれるのだ。
自己チューなメイビスに対し、ものの道理を説くのがパットン・オズワルト演じるマット。障害者であるマットはあらゆる面でメイビスと対になる存在だ。恐ろしいほどの美貌を持ちながら無軌道な行動を繰り返すメイビスと酷い外見と障害を持ちながらまともな生き方を説くマット。”気がつくとなぜかそこにいる”というマットは、メイビスのもう一つの心、ヤングな自分と葛藤するアダルトな自分だ。マットと口論するメイビスは同時に自分と戦ってもいるわけだ。
しかし、ラストまで観てつくづく思う。年を追うごとに大人になって丸くなっていく人生も悪くはないけど、周りをすべて「糞!」と罵倒しながら「自分は自分!」とスクっと生きていくのもいい生き方だ。「迷惑な大人でもいいじゃないか、どうせ人生1回だし、好きなように生きてやれ!」とちょっと熱くなれる。
しかし面白い作品だ。ジェイソン・ライトマン監督とディアブロ・コーディの組み合わせというだけで期待は大きかったが、それを裏切らない素晴らしいデキだ。思えば同じコーディ脚本の『JUNO』も奇天烈な女の子の奇妙な話だったが、彼らの手にかかると奇人変人の奇行物語がこれほど普通の人間の感覚をシェイクする作品に仕上がるのが本当に凄い。
シャーリーズ・セロンを始め俳優陣も大充実! 自分の美しさがまるで罪とでも言わんばかりの、ある意味『モンスター』よりも自虐的な演技をみせるシャーリーズ・セロンに脱帽! 2回ほどあるヌーブラシーンなんて、もう土下座したくなるほど。愛車がBMW MINIというのが泣かせる。
<Raiting>
満点! ジェイソン・ライトマン監督作品は極端に相性がいいのか『JUNO』『マイレージ・マイライフ』も満点評価だった。何度も観たくなる作品だ。置かれた現状によって受けとり方が変わり、さまざまな見方ができるという点では『ブルー・バレンタイン』に近いかもしれない。
<Trailer>
あー
テーマ:映画館で観た映画
ヤング≒アダルト@ぴあ映画生活
評価:
--- 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン ¥ 1,477 (2010-08-04) |
- 2012.03.13 Tuesday
- 映画
- 01:42
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